初夏の京都のお楽しみ、鱧(はも)のお話
こんにちは、京扇子の白竹堂です。享保3年、1718年から京都で扇子屋を営んでおります。
7月が近づくと、京都では「鱧(はも)」をよく見るようになります。定番は「落とし」つまり湯引きです。梅肉や酢味噌を添えた真っ白な落としを見ると「ああ、いよいよ夏やなあ」としみじみ思います。
鱧は高級魚と思われがちですが、京都では庶民にもなじみのある、夏を代表する味のひとつです。スーパーでも、落としはもちろん天ぷらや照り焼き、あぶり焼き、汁物、店によっては加熱用の生の鱧も並びます。独特の食感とあっさりした味で、食欲がないときでも美味しくいただけるのは、この時期ありがたいかぎりです。
今日は、そんな鱧の話をしましょう。
京都で鱧が好まれるのはなぜ?
京都は内陸の街です。海からは少々距離があるため、海の幸とはやや縁遠い食生活を長く送ってきました。かつては京都で食べる魚というと、鮎や鯉、鮒(ふな)などの川魚が中心でした。琵琶湖が近いことから、琵琶湖産の魚もよく見かけます。海の魚というと、若狭から届く塩漬けの鯖やぐじ(甘鯛)、身欠きニシンや棒鱈など、保存用に加工したものが中心だったそうです。
そんな京都で鱧が季節を代表する味になった理由は、その生命力の強さにあるそうです。以前、あるテレビ番組がどれだけ強いのか確かめようと、鱧を水槽から出して様子を観察したことがありました。さすがに半日以上経つと鱧は動かなくなってしまったのですが、再び水槽に戻すと、なんとまた元気に泳ぎ始めたのです。
一般的に魚はえら呼吸、つまりえらを使って水の中の酸素を取り込みます。一方、鱧は皮膚から直接酸素を取り込みます。だから、水がなくなってもある程度は生きていられるわけですね。こんな鱧だからこそ、海から離れた京都にも運びやすかったのでしょう。
鱧の調理には熟練の腕が必要
スーパーで見かける鱧のほとんどは、落としや天ぷらなど加工済みのものです。たまに生のものを見かけますが、他の魚と違って丸ごと販売されていることはまずありません。
その理由は2つあります。まず、鱧はとても長い魚です。鱧は鰻の仲間で、細長い体をしています。長さは鰻より長く、だいたい1メートル前後、長くて2メートル以上にもなるそうです。これはとてもじゃないけど売るのが大変ですね。
もうひとつの理由は、捌くのがとても難しいこと。鱧は小骨が多く、これをきれいに取り除くのは至難の業。さらに、血には毒性があります。このため、きちんと勉強をした料理人の方などが、専用の「鱧切り包丁」を使わないと安全に捌けないのです(なお、血の毒性は加熱すればなくなるので、火を通した鱧は安心して食べられます)。
さて、7月に入ると京都では祇園祭が始まります。祇園祭の時期は鱧の美味しい時期でもあります。祇園祭にお越しになるときは、ぜひ鱧も味わってみることをおすすめします。